セリンとレンカク 1話目

   1

 私——セリンは初めてキスをした。
 相手は同い年のイカボーイ、レンカク。レンカクとは対等な関係ではなく、私はコイツから仕事バイトを教わる立場にあった。
 教わる代わりに、私は自分のカラダを差し出している。胸を揉ませているだけなのだが、今から一線を越えようとしている。
 そうしたいと思ったのは、私の方だった。


   2

 この街——大陸は、シャケという種族から狙われている。
 鮭の遡上サーモンランから街を守るため、前線に赴きシャケたちと戦うのが、クマサン商会で働いているイカとタコだ。
 とはいえ、そんな大層な志を抱いて働いているヒトは少なく、私も短時間でおカネが稼げるからやってるクチだった。

 ある日、ドン・ブラコで散々な目に遭って帰投したとき、知り合い程度の付き合いのレンカクに「もっと真面目にヤれば上手くなるのにね」と笑われながら言われたことがきっかけで、レンカクから色々教わることになった。
 ヒトをバカにした物言いにカチンときたのだが、実際レンカクはキケン度マックスを常時任されるくらい上手いし、この生意気なイカボーイを利用して上手くなれるならなんでもしてやる、と負けず嫌いの炎が燃えたのだった。
「ふぅん、やる気あるんだ。じゃあ報酬におっぱい揉ませてよ。おカネはいらないからさ」
「はあ……?キモ……」
「いいじゃん、減るもんじゃなし。他の部分は触らないからさ」
 自分の胸と、教えてもらうことを天秤にかけてみる。
 自分の動きを見てもらえて、改善点を教えてもらえる。私はレンカクの動きを見ることができる。レンカクと一緒にいることで、人脈が広がる可能性もある。仕事の成功率も上がるだろう。
「ふむ……」
 レンカクを見る。
 ハキハキと喋り、よく笑う。自分に自信があるのは、やはり顔立ちがいいからだろうか。少なくともコイツに触られたくないと感じる要素はなかった。
「わかった、いいわよ。その代わり胸以外を触ったらコロすからね」
 この判断が、自分を狂わせることになるとは思っていなかった。

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