セリンとレンカク 2話目

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 雲ひとつない青空。風は少し冷たく、でも動けば少し汗ばむ陽気。
「というわけで、ガチアサリに行きたいと思います」
 と、レンカクに連れられてやって来たのはチョウザメ造船。そういえばバンカラマッチに参加するのは久しぶりかも。
 ジェットスイーパーをコツコツと二度ノックして、今日もよろしく、と心の中で挨拶をする。これをすれば勝てる、というわけではないのだけど、気付いたらバトル前にこうするようになっていた。
 隣を見るとレンカクがいる。デンタルワイパーにおかしなところは無かったらしく、「よし」と呟いてこちらを見て来た。
「そういえば初めて一緒にバトルするね。よろしくね」
「ええ、よろしく」
 少しだけ、どきりとした。
 そっか、はじめてか。

 バトルの内容は、褒められもしないけど悪くもない、という感じだった。
 相手のローラーをしっかり落としたし、チャージャーのジャマも出来た。味方の援護射撃も出来た……と思う。
 レンカクはというと、とにかく前線を維持してくれていた。
 ふと、レンカクの姿が見当たらないな、と思っていたら、チームのチャンネルに『ガチアサリ作ったらここに飛んできて』というレンカクの声が届いた。どこにいるのかと思ったら、相手ゴール側の、狭いインクの中にセンプクしていた。
 ハラハラしつつも、味方からアサリを受け取りガチアサリを作る。敵が四人こちらに向かってくるのを確認して、レンカクのところへ飛んで、ゴール目掛けてガチアサリを投げ込む。
 戻って来た敵たちに二人仲良く倒されて、でも味方も頑張ってアサリを入れてくれて……なんとか勝つことが出来た。
「もう、びっりしたわよ!」
「裏取りしようかなって思ってたんだけど、ガチアサリ作れそうだったから」
 ヘラヘラしながらロビーへ戻るレンカクにため息が出る。
 今回のようなレンカクの動きはあまり好きではない。もし見られていたら……もし塗り意識の高いヒトだったら……。
 でも現に勝っていて、ウデマエもレンカクの方が上。クマサン商会での仕事でも、レンカクは危なっかしいことを平然とやってのける。
 見えてる世界が違うんだな……。
「はあ」
 心にもやもやしたものが生まれてしまった。わたしはレンカクに嫉妬しているし、弱い自分が嫌いだ。なぜ私は弱いままなんだろう……。
「セリン?」
「え」
「このあと、ホテル行かない?」
 レンカクに手を握られ、ミミ元で囁かれる。
 あまり気分ではないけど、断ったらガッカリさせてしまうかも……。
 こくん、と頷いて返事をすると、レンカクは嬉しそうに笑った。

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